田村歯科
 
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歯科と食養


1998年3月月刊 『正食』
医学シンポジウム(講演)
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  田村享生
 

 

 私は、「歯科と食養」というテーマでお話をしていきたいと思います。具体的に歯科にどのような形で食養を生かせるか、臨床の実際の場というものはどういう形で進められているのかを、紹介させていただきます。

 

 

私の失敗

 

 私はもともと東洋医学的なことに関心を持ってまして、針や気功や食養などに関心を持っておりました。その中でも食養はかなり大事な部分を占めていましたので、自分自身を実験台にして、実際に取り組んでみました。
 
その結果、そのすごい力に驚きました。それまで歯医者の仕事を一日やると、へとへとになって口をきく気力もなかったのですが、玄米食にしてから疲れにくくなり、風邪をひくことも少なくなりました。
  それでさっそく患者さんの臨床に取り入れようと考えたわけです。食養の中でも根本的な玄米菜食、あるいは陰陽の理論が一番おもしろく感じましたので、そういうことを患者さんにお話したわけです。

  今までは、単にお菓子とか歯磨きの話程度の話だったところへ「玄米というのはすごい力があるから食べなさい」とか、陰陽表をあげたりしたわけです。今振り返ってみますと、この陰陽表に基づく食養は非常に厳しいですね。
  絶対に食べてはいけないとか、どうしても食べるのなら盆と正月だけとか、そういうものでほとんど占められていまして、常に食べるということとなると玄米と味噌汁と梅干しぐらいになってしまうという傾向がありました。実際に体を変えるという意味では、非常に有効なわけですが、そういうきびしいことを患者さんに熱い思いで話したわけです。

 その結果、臨床いうのは難しいもので、見事に失敗しました。患者さんが来なくなってしまったんです。
  当時私は、必死の思いでやっていましたから、何でこんなことが分からないの?という調子でしたから、もしあのままのペースでやってましたら今頃田村歯科医院はつぶれてしまってたんでしょうが、幸いありがたいことに今も何とかやっております。
  さまざまな試行錯誤を通して、やはり患者さんが、やってみようかな、と思っていただかないことには、臨床としては全く意味がありません。自分なりに工夫した、今おこなっているスタイルを具体的に紹介します。

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砂糖、肉、油の制限、そして咀嚼

 

 まず最初に歯医者ですので、患者さんの痛みや苦痛をとるのが大原則です。その後、予防的なことを含めましていろんなお話をするわけです。
  そして、治療、食養の第一段階として、三種類の食べ物の制限をお話します。この時点では玄米の話はいっさいしません。歯医者で話をして不自然でないもので、まず第一に砂糖の制限の話。
  砂糖はカルシウム代謝に負担を与えたり、ビタミンをかなり消耗します。食養的に言えば極陰性で体を緩めてしまう。悪い面を探せばきりがない程あるわけですから、そのことを分かっていただきます。
  患者さんも歯医者に来て、砂糖のことを改めて言われると、仕方ないなという気持ちでうなずいてくれるわけですが、これがとても大事なところです。

 砂糖のことでのうなずきに乗じて、第二番目はお肉の話をします。砂糖は陰性と酸性食品代表ですが、陽性の酸性食品代表選手はやはり肉ということになります。
  お肉に関しては、一般の方はあまり危機感を持っておられないどころか逆に一所懸命食べておられますから、このお肉の話がちょっと難しいのです。
  あまり観念的ではなく、例えば腸内細菌のバランスを崩すとか、酸性がとても強いとか、あるいは現在の畜産業が非常に厳しい状況で、人工肥料や大量の薬を使用している話なんかをして、「お肉はむしろ少ない方がいいんですよ。」とか「牛乳もたくさん飲む必要はないですよ」というような話をします。

 三番目は油の制限の話です。現代生活のなかでとりすぎているものの一つが油だと思います。
  油自体は、そう目くじらをたてる程ではないんですが、酸化した油は危ないと言ってもいいです。患者さんの同感を呼ぶジェスチャーとして、少しおなかの肉をつまみながら話をするといいです。
  30歳以上の方のおなかは、たいがい二段腹、三段といった調子で、たいてい緩んでおられますから、「油をとりすぎると、この脂肪細胞が体にたくさんたまっていろいろ悪いことをしてしまうよ!」というふうに油の話を伝えます。

 このようにしてお砂糖の勢いを借りて、実はお肉と油の話をしてしまうと言ったほうが正解ですが、この三つの食品の制限が大切です。
  大事なのは、やはりできるだけ敷居を低くするということですね。第一歩を踏み出していただかないと全く意味がありませんから。実はこの三つだけでも努力するとすごい効果があると思うんです。

 そしてもう一つ最初の段階でお話しなければならないのは咀嚼です。噛むことです。一口100回は理想としまして、噛むということは何にもかえ難いすばらしい効果があります。

 まず唾液の分泌がさかんになります。唾液に含まれる消化酵素、アミラーゼが消化を助けます。それに殺菌作用があり、抗がん作用もあると言われています。
  また人工の添加物などの化学物質を分解したり中和する働きもあります。あるいは口の中のペーハーをちょうど良い状態にする緩衝作用働きもあります。さらに唾液の中にバロチンという物質が含まれていて、発見当時その働きからいって若返りのホルモンではないかと、かなり話題になった物質で、科学的にはホルモンとしての認定は否定されましたが、そういう素晴らしい物質も出てきます。
  唾液は完全なオーダーメイドで、当然何の副作用もありません。また咀嚼を一所懸命することで、顎を含めて血行が促進されます。
  頭に対して顎は血液のポンプと言われています。顎をよく動かすことで、脳内血液が増えるわけです。頭だけでなく、首、肩、全身の血液が増えるということが分かっています。よく噛むだけで、体が暖まり、体自体の活性が高まってくるわけです。さらに噛むことでダイエット効果もあると言われています。このように噛めば噛むほど元気になると言っていいと思います。

 それでもこういう話を患者さんに伝えて、意識して下さる方は半分くらいです。あと半分は、実生活をほとんど変えることができない方がほとんどです。
  歯医者でこういうことを話すのは、おせっかいと思われる方が多いのですが、そういう方に、食養の大事さを気づいていただくチャンスだと思いますし、それは私たちの責任だと思います。
  100人に話して、何十人かは必ず喜んでくれたり、努力していただけます。そして、何人かは劇的な変化をされておられます。

  玄米の話は、食べ物で体の変化に気づいて、関心のある状態になってから初めて、お話する価値があると思います。
  そういう人は、必ず次はどうすればいいかといろいろと質問されますから、玄米の話や食品添加物の話や食べ物全般の話、陰陽の話へと深めていくことができます。

 私自身の臨床感としては、無理に玄米をお勧めするよりも、胚芽米や五分づき米でもいいのではないかと思います。
  また主食を菓子パンで済ませているような人にとっては、白米も悪くないんですよ。そのような人が白米を一所懸命食べるようになれば素晴らしい進歩ですし、また次の気づきで胚芽米、五分づき米、玄米と一歩ずつ上がっていけばいいのではないかと思います。
  やはり食養というのは、画一的に勧めるには無理があって、相手に応じて強く言ったり、時には優しく言っていろんなヒントを提供させていくのがいいと考えております。

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虫歯について

 

 歯医者で扱う病気の種類をおおまかに申しあげますと、虫歯、歯周病、顎関節の三つです。
  まず虫歯に関しては現代歯科学的にも、砂糖が相当関与していることがはっきり分かっています。また食養では糖分を控えめにという考えがあり、当然虫歯の発生は減ります。
  さらに玄米や野菜を多く食べるということは繊維性の植物が、歯の表面の汚れをこすり落とすような働きをするわけです。食べながらにして歯磨きをしているようなものですから、玄米菜食は非常に虫歯に対して有効です。

 ただ玄米菜食を実践していると言えども、実際私たちの食生活というのは、加工されたものが多くて天然自然の野生のものを食べているわけではありません。
  野生の動物には、虫歯も歯槽膿漏もありません。ところが、動物園の動物たちは虫歯にもなり、歯槽膿漏もあるということです。ですから加工された物を食べる以上、歯の手入れは絶対に必要です。

 常識的な歯ブラシに加えて食養を併用することによって虫歯の発生は極めて効果的に防げると考えています。
歯磨きだけは絶対に必要ということです。

 

 

歯周病について

 

 二番め疾患は歯周病です。歯槽膿漏ともいいますが、歯の周りの歯茎が緩んでしまって歯がグラグラになってしまうものです。
  食養をしますと口の中のバイ菌の絶対数が減りますし、有害な菌がバランス的に減りますから非常に有効です。それでもブラッシングの必要性は虫歯以上に高いと思います。

 玄米菜食を実践されている方の、意外な落とし穴が、口の中の管理不足です。自然治癒力が向上するといろんな病気は防げますし、万が一病気になっても治すことが可能だと思いますが、虫歯は自然に治りません。
  削ったり詰めたりしなければ治らないわけです。歯は体の中で唯一自然治癒力がない部分なのです。ですから食養の通常の感覚で、これだけの努力をしているから大丈夫なはずだというわけにはいきません。

 やはり人為的な管理や手入れが必要です。
それで基本的には歯磨きということになりますが、皆さん毎日何分かは磨いておられるのでしょうが、私たちの目から見ると歯の表面だけをこすって、肝心な掃除がほとんどできていない方が多いのです。
  ですから歯科に関しては歯磨きの指導や掃除の仕方は、ぜひ歯医者を上手に利用していただくといいと思います。

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顎関節病について

 

 そしてもう一つの疾患は顎関節病です。顎関節症とか顎関節由来症とかいろんな言い方がありますが、顎関節の働きが悪くなってしまって、それが原因で首とか肩、そして全身にまで波及してしまう病気です。

 軽い症状としてはコキコキと音がする程度のものから、頭痛、耳鳴り、肩こり、さらに心臓疾患や女性の方だと婦人科系の病気になったりする場合もあります。
  その原因の多くは、歯と歯の噛み合わせの異常が原因です。顎の動きを歩く姿勢に例えると、足の指に痛い箇所があって、その部分を避ける形で歩くうちにだんだん歪んだ姿勢をとる癖がつくようになると思います。
  そしてその姿勢を長く続けることによって、多分膝や腰が痛くなったりするわけですが、歯の場合はもっとこれは深刻です。

 ある歯が飛び出しているとか、噛むと痛い部分があるとそこを避けて苦痛のないような噛み合わせを自然に探します。
  ところが本人はそれで苦痛がないと思っていても、不自然な動きを一日1000回、2000回、それを1年2年続けてしまうことがあり、その不自然な働きの力が第二頚椎のあたりに集中するといわれています。

 それが体全体に波及することになってしまうわけです。不幸にしてこういう状態になってしまった場合の治療は、基本的に歯の噛み合わせの異常を治すわけですが、現代歯科学の最先端でも非常に治りにくく、難しいわけです。
  入れ歯みたいなものを入れるのが、通常の噛み合わせ治療ですが、患者さんによっては食養を勧めます。
  すると不思議なことに顎関節由来と思われる症状が消えていくんです。食養をご存知の方は当然という感じがするかもしれませんが、噛み合わせ病ということを考えると、これは大きな驚きでありますし、私自身非常に驚きました。

 食養を一所懸命実践している人は、医者なんかにかかってもしょうがないとか、自分で治るはずだからという、言葉は悪いですが医者不審といいますか、食養を大きく見過ぎてしまう傾向があると思いますが、そんなことはないです。私たちの体というのは三次元の見える肉体を持っていますから、現代医学の理論的な部分と食養の両方で実行していけばいいんですね。

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いのちのエネルギー

 

 私が歯科で実際にやっている仕事の概略を述べましたが、最後に食養全体のこと、治療全体のことをお話しておきたいと思います。
  多くの方が病気治しや体の不調が発端になって玄米を食べたり、食養に取り組んでいくと思うのですが、それはそれで結構なことだと思います。

 薬とか外からの力で無理矢理戻すのではなくて、自分の中に内在した治癒力で治していくわけですから、非常に素晴らしいことです。
  ただその段階では、何を食べるんだとか、これは食べてはいけないんだとか、玄米の炊き方であるとか、いわゆるテクニック的なことが中心になります。確かに必要なことですが、それは第一期、最初の段階だと思います。

 ある程度、食を正しくしていきますと、食べ物の味というのはこんなにも違ったのかという時期が来ると思います。
  私自身が玄米を食べている理由は、もちろん健康のためとか仕事上その経験を生かしていきたいということもありますが、一番大きな理由はやっぱり美味しいからなんです。
  そして味覚としての美味しさももちろんですが、その食べ物の中のエネルギーを感じるわけです。

 私も昔はファミリーレストランに行ったり、ファーストフードを普通に食べている時期がありましたが、現在はあまり食べる気はしません。
  つき合いでそういう店に入ることもありますが、食を楽しむ所ではないと思いますし、はっきり言いますとまずいんです。
  それは添加物とか調理法によるものかもしれませんが、多分それだけではなくて、エネルギーのない、形だけの食べ物という感じがするのです。
  そのエネルギーというものをどういう形で言えばいいのかよく分かりませんが、東洋医学的な発想ですと、気です。その気の流れが体を循環してバランスをとっていると思います。
  食べるということは、地面に含まれている気を取り入れる作業だと思いますし、呼吸は天空に含まれている気を取り入れる作業です。

 そのような発想をする中国医学の概念を以前は理屈の上では理解していましたが、今では実感として感じています。
  気についてはまだ科学的な定義がはっきりしていませんから、いろんな解釈がありますが、私たちは肉体の中を気のエネルギーが循環していて、そのエネルギーが十分に満たされた状態の時初めて、肉体が思いきり正しく機能するわけです。
  当然健康の度合いや元気さは個人差がありますが、仮に病弱で床に臥せっている人でも、その見えないエネルギーは膨らんだり縮んだりいろいろして、そのエネルギーが大きくなった時、その人の肉体にとって最大限のエネルギーが出ると思います。

 現在私たちの生活は経済的な要素を極めて強く受けています。
  効率的に仕事をすすめなければならなかったり、簡便に、簡略化して、早く物事を処理していくことが必要とされています。

しかし、私たちの肉体、さらにいえば命のエネルギーというものは、簡便にちょっと手を加えて、パッと治るというものではありません。
  心を込めて、手をかけて、大事にして初めてそういうエネルギーが大きく膨らんでくるわけです。その状態が本当にすばらしい健康状態につながっていくのではないかと思います。

 食というのは、その命を支えるエネルギー源で非常に大事なものだと思います。まさに食生活はその人の生き方そのものなのです。簡単に早くすませてしまうのがいいのか、それともお母さんがゆっくり手をかけたものをベストとして考えるのか・・・。
  何が一番大事であるか気づかなければいけないのです。
  玄米菜食というのは、そういうことを私に考えさせ、気づかせてくれたとても有り難いものです。
  皆さんもぜひ本物の食の素晴らしさを知り、健康のすばらしさを知り、「いのち」のすばらしさを体感していただきたいと思います。 

 

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